債務整理のリスクやデメリットについて解説します。債務整理に共通のリスクとしては新たなローンを組んだり、クレジットカードを利用できなくなることがあります。また、保証人のある債務は、保証人に請求が行くことがあります。一方で、債務整理を理由に会社を解雇されるなどといったリスクはありません。
債務整理には手続き別のリスクと共通のリスクがある
債務整理とは、法律の専門家に依頼して行う借金整理の手続きのことで、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」があります。任意整理→個人再生→自己破産の順でより強力な借金の減免が可能になりますが、強力になる分リスクやデメリットも増えます。また、すべての手続きに共通するリスクもあります。
(1)任意整理
任意整理は、弁護士等を通じて、お金を借りた業者や金融機関と交渉を行い、利息のカットやリスケジュールなど、借金負担の軽減をする手続きです。
(2)個人再生
住宅ローンを払い続けながら、住宅ローン以外の借金を大幅に減額できる、裁判所を通した手続きです。
(3)自己破産
借金を帳消しにできる、裁判所を通じた手続きです。代わりに、一定額以上の財産は原則として手放さなくてはなりません。
実際に債務整理を行う際は、借金額や年収、借り入れやその他の状況によって、借金問題がまだ深刻ではない場合はリスクの少ない任意整理を、より問題が大きい場合は個人再生や自己破産を選ぶことになります。
債務整理共通のリスク
(1)債務整理後5~7年間、新たなローンができなくなる
債務整理をすると、借金をした金融機関はもちろんですが、それに限らず、ほとんどの金融機関で借り入れができなくなります。住宅ローンや自動車ローンの新規契約もできなくなります。携帯電話やスマートフォンの分割払い方式による購入もできません。
これは、「信用情報機関」という、お金を借りる人の信用情報を記録し、金融機関のあいだで共有する組織が存在するからです。債務整理は、お金の返済が難しくなった人が行う手続きですから、債務整理の記録が信用情報機関に残っていると、金融機関がローンの審査を行う際、「この人はお金を約束通りに返済できなかった人なんだな」と判断し、審査に落ちます。
まれに、事故情報が載っていたとしても、年収やそのほかの信用状況と合わせてお金が借りられるケースはあります。しかし、原則として新たな借り入れは難しいと思ってください。
・ブラックリスト入りとその期間
信用情報機関に債務整理の記録が残ることを俗に「ブラックリスト入り」といいます。ブラックリストというと恐ろしいイメージがありますが、信用情報機関は国に認められた合法的な機関です。借金をしたことのある人やクレジットカードを持っている人ならだれでもお世話になっている機関ですのでご安心ください。
また、ブラックリスト入りするのは債務整理をした本人だけで、家族の信用には影響ありません。夫婦や親子、同居の家族であっても無関係ですので、家族の借金やクレジットカード利用に関して、何の迷惑もかけることはありません。ブラックリスト入りしても、家族や周囲に債務整理の事実が知られることもありません。
債務整理の記録が残るのは通常5~7年ほどで、期間を過ぎれば記録は消え、また借金ができるようになります。
(2)クレジットカードの利用や、新たな作成ができなくなる
クレジットカードはローンと同様に、個人の信用のもとにお金を立て替え払いしています。信用情報機関に債務整理の記録があるとカードを利用できなくなり、新しいカードも作れなくなります。公共料金などをクレジットカードから引き落とす形で支払っていた人は、別の方式で支払うように変更する必要があります。
ローン同様、5~7年経過して記録が消えれば、またクレジットカードも作れるようになります。
・デビットカード
オンラインショッピングなどで、どうしてもカードを利用したい場合は、「デビットカード」というカードをクレジットカード代わりに使うことが可能です。デビットカードは支払いと同時に銀行口座からお金が引き落とされる仕組みのカードで、口座に入っている金額よりも多くのお金を使うことはできません。立て替え払いではないため審査がなく、債務整理をしても使うことができます。
(3)保証人がついている債務には保証人に請求が行く
借金をする際、保証人を付けた場合は、債務整理を行うと保証人に対して請求が行くことになります。多くの場合、保証人は血縁者など個人的なかかわりのある人がなるので、保証人のある債務を債務整理する際は、事前に連絡・相談をしておきましょう。
・保証人とは
保証人制度とは、借金をした本人が万が一お金を払えなくなった場合を想定して、あらかじめ代わりにお金を払ってくれる人を付けるという仕組みです。債務整理をするということは、約束通りに全額を返済するのが困難になったということですから、本人の代わりにきっちり全額払ってほしいと、債権者から保証人に請求が行くことになります。
・任意整理の場合
ただし、任意整理の場合は、保証人がついている債務を任意整理の対象外とすることができます。借金を任意整理しなかった場合は、保証人に請求されることはありません。これは任意整理だけのメリットで、個人再生や自己破産の場合は対象外とすることはできず、保証人に請求が行くことになります。
また、任意整理の場合、借金をした本人と保証人がともに任意整理を行うことで、本人のみが債務を支払い、保証人は支払いを免れるような和解をすることも可能です。しかし、保証人もブラックリスト入りしてしまう可能性もありますので、事前に専門家と相談されることをお勧めします。
なお、保証人への請求は原則として「一括請求」となり、未払いの借金を一度に全部支払ってくれという請求が来ます。しかし、債権者によっては保証人に対しても分割払いでよいと言ってくれるケースもあります。特に、学生支援機構の奨学金の場合は、保証人に対する請求も分割払い請求がくる仕組みになっています。
・保証人もお金が払えない場合
特に、一括請求をされた場合、保証人も急にまとまった金額を支払うことができないというケースが一般的でしょう。その場合は、保証人も債務整理を行うことになります。どちらにしろ保証人に影響が及びますので、事前の連絡や相談は必ず行いましょう。
(4)専門家に依頼する費用がかかる
債務整理をする際には専門家に手続きの費用を支払う必要があります。一般的には、任意整理の場合は2~5万円程度、個人再生や自己破産は2~30万円程度といわれていますが、ケースによっても異なります。
しかし、費用がかかるからと言って債務整理を諦める必要はありません。お金に困っているからこそ債務整理をしたいという事情は、法律事務所側も理解しています。借金整理を得意とする法律事務所の場合、分割払いや後払いの相談に応じてくれるケースが多いので、無料相談などを利用して問い合わせてみるとよいでしょう。
また、過払い金が発生している場合、任意整理を行っても払いすぎたお金が戻ってくるケースもあります。
(5)ローン支払い中の車やバイクなどは手放すことになる
ローンを組んで購入し、現在も支払い途中の自動車やバイクなどは、債務整理をするとローン会社に引き上げられてしまう可能性があります。これは多くの場合、所有権留保と言って、ローンを支払っている間は所有権がローン会社にあるという契約になっているからです。
車やバイク以外の品物に関しては、ローン中であっても引き上げられる可能性は低いですが、引き上げられてしまうことがまったくないわけではないため注意が必要です。
すでにローンが支払い済みの品物に関しては、引き上げられることはありません。また、任意整理であれば自動車やバイクのローンを整理対象から外すことができます。
任意整理・個人再生・自己破産、手続き別のリスク
(1)任意整理のリスク
・交渉がうまくいかない可能性がある
任意整理は裁判所を通さず、弁護士などの専門家を介して行う私的な手続きですので、相手の業者や借り入れの状況等によっては交渉に応じてくれないことがあります。例えば、日本学生支援機構の奨学金制度の場合は、遅延金や利息の免除には応じないと言われています。
任意整理は債務整理の中でもリスクが少なく、費用面も抑えられるためメリットが大きい手続きですが、個人再生や自己破産のような裁判所を通した強制力のある手続きと違って、債権者と交渉して合意できないと問題が解決しません。
とはいえ、一般的な貸金業者や金融機関の多くは任意整理に応じます。また、依頼する法律事務所の経験や手腕によっても任意整理の結果が異なりますので、債務整理を得意とする法律事務所に相談したほうが良いでしょう。
(2)個人再生・自己破産に共通のリスク
・官報に載る
日本には「官報」という、政府の情報を伝える広報誌がありますが、個人再生や自己破産をすると官報に自分の住所や氏名が載ってしまいます。
政府の広報誌に個人情報が掲載されるというのは、いかにも大きなリスクに思えます。しかし、実際のところ、官報を見ているのは一部の特殊な職業の人たちだけで、国民のほとんどは官報を読むことはありません。したがって、あまり気にしなくてよいリスクといえます。
もっとも、掲載された住所に非合法の闇金業者がダイレクトメールを送る可能性があります。
参考サイト:国立印刷局「官報について(https://www.npb.go.jp/ja/books/kanpo.html)」
・家族に知られる可能性がある
任意整理の場合、家族に知られる心配はほとんどありません。しかし、裁判所を通す手続きである個人再生や自己破産は必要な書類も多く、準備や手間がかかります。また、住宅ローンや自動車ローンなどついても影響があるため、家族に債務整理をした事実が発覚する可能性が高まります。さらに、自己破産の場合は一定額以上の財産を処分させられてしまうので、同居の家族に知られずに自己破産をするのは難しくなります。
家族に知られずに借金の負担軽減をしたいのであれば、まだ問題が大きくならないうちに任意整理による解決を目指したほうが良いでしよう。
(3)自己破産のリスク
・一定額以上の財産が処分される
20万円を超える財産や99万円を超える現金を持っていた場合、超過分は裁判所によって処分されてしまいます。住宅や自動車も処分対象となります。生活に必要な家電やタンスなどは処分されないため、過度に恐れる必要はありませんが、借金帳消しという大きなメリットがある分デメリットも大きくなっています。
・借金が帳消しにならないケースもある
自己破産で借金を帳消しにするためには「免責」という手続きを取りますが、ギャンブルや浪費などが理由でした借金の場合、免責されないケースがあります。もっとも、ほとんどの場合、裁判官の裁量によって免責は認められますので、ギャンブルや無駄遣いによって作った借金でもあきらめずに専門家に相談してみましよう。
・職業に制限がある
自己破産をすると一定の職業に就けなくなります。制限がかかる代表的な職業としては以下のものがあります。
- 会社の取締役や監査役などの役員
- 弁護士、司法書士、税理士、公認会計士など、他人のお金を預かる士業
- 警備員や保険の外交員、質屋など
基本的には、他人のお金を預かる責任の大きな仕事が対象となりますが、変わったところでは競馬の騎手や調教師なども制限対象となります。気になった方はご自身の職業に関して、制限対象となるか調べてみるとよいでしょう。
ただし、これらの職業制限は一度破産したら以後ずっと続くというものではなく、破産の手続きが完了すればまた仕事に復帰できるようになります。職業制限がかかる期間は3か月~6か月ほどになります。
債務整理にこんなリスク・デメリットはない
・会社を解雇される
債務整理を理由に会社を解雇されることは原則としてありません。あったとしたらそれは不当解雇に当たります。例外的に、会社から多額の借金をしていて自己破産となり、会社に損害を与えた場合などは解雇事由となることがあります。しかしそれはまれなケースです。同様に、公務員が自己破産をしても懲戒解雇となることはありません。
・戸籍や住民票に債務整理の事実が載る
債務整理の事実が記載されるのは、お金の貸し借りの情報を管理する信用情報機関の記録だけです。閲覧に際しても制約があり、金融機関がお金を融資する際か、お金を借りた本人の請求でしか情報が見られないようになっています。
・破産者名簿に載る
市町村に「破産者名簿」が存在することは事実ですが、この名簿には、自己破産に失敗して免責が得られなかった場合にのみ掲載されます。現在、ほとんどのケースで免責が認められていますので、破産しても破産者名簿に載ることはほとんどありません。
・年金が受け取れない、選挙権がなくなる
債務整理を理由に受け取れるはずの年金が受け取れなくなったり、基本的人権である選挙権を喪失するということも一切ありません。
まとめ
債務整理の代表的なデメリットは、一定の期間新たな借り入れができなくなるというものです。しかし、借金に困っている人にとっては、強制的に借金ができなくなる仕組みは、借金地獄から立ち直るためのメリットにもなるといえます。
また、5~7年ほど経過すればまた借り入れも可能となりますので、デメリットを恐れすぎず、専門家に相談してみましょう。