自己破産をするとその後の生活はどうなるのか、メリット・デメリットと合わせて具体的に生活の変化を紹介します。自己破産をすると一定期間、新たにお金を借りることが難しくなりますが、元々高額な財産がない場合、生活は大きくは変わりません。自己破産を検討するべきケースや、自己破産手続きの大まかな流れについても解説します。
目次
自己破産のメリットとデメリット
【メリット1】借金を帳消しにできる
自己破産の最も大きなメリットは、抱えている借金がすべてなくなることです。消費者金融や、住宅ローンやカードローンからの借り入れはもちろん、クレジットカードの滞納金、奨学金、友人・知人など個人からの借金もすべて消えます。また、借金の金額がどれほど高額であっても消えてなくなります。
具体的には、裁判所で破産開始手続を行った後、「免責」という決定を受けることで、すべての借金が免除されます。免責を受けるためには、借金をした理由などについて一定の条件がありますが、免責不許可事由に当てはまるケースでも、実際は裁判官の裁量により多くの人が免責を受けています。
自己破産は、借金が支払えなくなって苦しんでいる人が借金苦から解放され、再び明るい人生を歩むための手続きです。「自己破産をするとお先真っ暗」というイメージがあるかもしれませんが、実際は「自己破産することで明るく生きよう」という手続きですので、過度にリスクやデメリットを怖がらずに検討されることをお勧めします。
【メリット2】収入がなくてもできる
自己破産は、完全な無収入でも可能で、だれでも手続きできます。法律的な借金の負担軽減手続きを「債務整理」と言い、自己破産のほかにもいくつか種類がありますが、自己破産以外は借金をした人に一定の収入があることが条件になります。しかし、自己破産だけは収入が全くなくとも可能で、病気や災害によって仕事を失ってしまった人でも手続きできます。無職、主婦、生活保護受給者であっても自己破産は可能です。
【メリット3】財産がすべてなくなるわけではない
自己破産をしても、財産がすべてなくなるわけではありません。冷蔵庫や身の回りの品、家財道具など、生活に必要な品物は手元に残ります。自己破産手続きをすると、持ち家や高価な品物は失うことになりますが、もともとあまり財産を持っていなかった人であれば、失うものも少なく、生活はほとんど変わりません。
また、破産手続きが終わった後に手に入れたお金や財産が没収されることもありません。
【メリット4】取り立てや督促がストップする
裁判所で破産手続きをする前に、弁護士に自己破産手続きを依頼した段階で取り立てを止めることができます。弁護士は、破産手続きを受任すると、「受任通知」を各債権者(お金を貸した人)に発送します。これを受け取った債権者は以後、弁護士を通じて債務者(借金をした人)とやり取りをすることになり、直接債務者に連絡を取ることはできなくなります。
取り立てや督促をストップさせる効果は、自己破産以外の債務整理手続きでも発生します。借金の支払いが遅れて催促に悩まされているのであれば、早めに弁護士に相談してみましょう。早めに相談すれば、借金額や収入状況によっては、自己破産よりも影響の少ない債務整理で済むこともあります。
【メリット5】差し押さえが停止する
借金の支払いを滞納していると、裁判所を通じて、債権者に給料や財産が差し押さえられてしまうことがあります。しかし、破産手続きを開始すれば、給料などを差し押さえられるおそれがなくなり、また、すでに差し押さえを受けている場合は、効力を停止することができます。
【デメリット1】20万円以上の財産と99万円以上の現金が無くなる
自己破産最大のデメリットは、家や車、貴重品などで一定の価値がある財産が裁判所によって換価・売却されてしまうことです。
自己破産は、本来ならば支払うべき義務のある借金を帳消しにするための手続きです。債務者にめぼしい財産がある場合は、その財産は売却して少しでも債権者に配当しなくてはなりません。そのため、生活に必要な道具と、価値の乏しい財産を除いて、20万円以上の価値がある品物や車、生命保険、預貯金は全て裁判所によって没収されてしまいます。
【デメリット2】税金や罰金はなくならない
自己破産をすると、銀行や貸金業者などからの借金はなくなりますが、滞納している税金や社会保険料、罰金など、国や地方自治体に払わなくてはならない税金等を支払う義務はなくなりません。自己破産に限らず、すべての債務整理についても同じことが言えます。
【デメリット3】自己破産後一定期間、借金ができなくなる
自己破産をすると、個人のお金の貸し借りの記録を管理している「信用情報機関」という組織の記録に、自己破産の記録が7~10年の間登録されます。この記録がある間は、金融機関から新たな借り入れをすることは難しくなります。クレジットカードも作ることができません。
期間の経過により自己破産の記録が消えれば、再び借金やクレジットカードの作成が可能になります。
【デメリット4】連帯保証人に借金の請求が向かう
借金に保証人や連帯保証人がいた場合は、破産者に代わって借金を支払うように請求が行きます。保証人になってくれた人に迷惑がかかりますので、事前に連絡して事情を説明し、謝罪しておきましよう。連帯保証人が借金を支払えない場合は、任意整理や自己破産を検討することになります。
また、自己破産は自分一人だけに効果がある手続きなので、基本的に家族に影響はありませんが、家族が連帯保証人となっている場合は、話は別です。この場合は、家族が取り立てを受けることになりますので、破産者ととともに家族も自己破産をするケースが多いです。
【デメリット5】一部の職業は、破産手続き中は仕事につけなくなる
弁護士や公認会計士などの士業、旅行業者や警備員、生命保険の外交員、貸金業者などの仕事についている人は、破産手続き中は仕事に就くことができなくなります。しかし、破産手続きが完了すれば再びこれらの職業に就くことができます。
【デメリット6】官報に掲載される
官報は政府が発行する広報誌で、自己破産をした場合は住所や名前が掲載されます。官報の情報は膨大で多岐にわたるので、官報掲載をきっかけに知人友人に自己破産が知られてしまうことはほとんどないでしょう。
自己破産すべきかどうかの判断基準
借金額や収入にもよりますが、「このままでは借金が返済できない」という状況であれば、自己破産を検討されたほうが良いでしょう。たとえ、借金額が100万円程度でも、病気で働けないなどの事情があれば、自己破産をしたほうが良いケースと言えます。
自己破産すべきかどうかの判断基準としては、以下のような条件が考えられます。
- 利息の支払いだけで手いっぱいで、元本まで支払うゆとりがない
- 住宅ローンを除く借金の総額が年収よりも多い
- 借金を返すために別の金融機関から借金をするという、多重債務状態になっている
- 収入が途絶えてしまい、当面状況は良くなりそうもない
- 金融機関からこれ以上借金ができない
- 売却できるような大きな財産がない
なお、自己破産しかないと思うような状況であっても、専門家に相談してみれば、もう少し影響の少ない任意整理や個人再生などの選択肢が取れることがあります。借金問題の相談に関しては、多くの法律事務所が無料で法律相談を受け付けていますので、そうした窓口を利用されるとよいでしょう。
自己破産後の生活
基本的に、自己破産前には多くの財産があり、豊かな暮らしをしていた場合は生活が大きく変わりますが、元々慎ましやかに暮らしていた場合は、生活は大きくは変わらないでしょう。家財道具などの生活用品は手元に残りますし、自己破産をしたからと言って選挙権が無くなるわけでも、一部の職業を除いて仕事がなくなるわけでもありません。また、連帯保証人でない家族には、自己破産の影響はありません。
自己破産をした場合、手続き書類の作成や財産の処分などにより、同居の家族に知られる可能性は高くなります。しかし、同居でない家族や近所、友人、勤め先などに自己破産の事実がばれる可能性はほとんどありません。
ただし、以下のような制約が発生しますので、注意が必要です。
- 7~10年ほどの期間、新たな借金やクレジットカードの作成・利用ができなくなる
- スマホなどを分割払いで購入できなくなる
- 持ち家だった場合は引っ越さなくてはならない
- ローン中の車や新品同様の車(売却価格20万円以上)は手放さなくてはならない
- 会社に借金をしていた場合は自己破産が知られてしまう
- ヤミ金融から融資の勧誘が来ることがある
特に、新たな借金ができないので、お金に困ってヤミ金融に行ってしまわないようにしましょう。犯罪に巻き込まれてしまったら新たな人生のリスタートが台無しになってしまいます。自己破産後に生活に困った場合は、お住いの地方自治体など行政機関に相談しましよう。
自己破産できない場合とは?
自己破産手続きの際、借金をした理由や、裁判所に対する態度が悪いなどの理由で「免責不許可事由」に当てはまった場合は、免責の許可が下りないケースがあります。免責は借金を帳消しにする効果を持つ重要な手続きですので、これができないと自己破産の意味がありません。
【免責不許可事由の例】
- ギャンブルや浪費による借金
- 破産手続きに際し財産を隠そうとした
- 裁判官に嘘をついた
- 過去七年以内に1度免責許可を受けている
自己破産は、本来返さねばならない借金を、債権者の負担のもとに帳消しにする手続きですので、頻繁に繰り返されては困ります。そのため、何度も繰り返しかねない借金理由の場合や、裁判所に対する態度が悪かった場合は、免責が認められないことがあります。
しかし、ギャンブルや浪費が原因の借金でも、裁判官に「この人は更生できる」と認められれば、裁量により免責されることがあります。実際には、ギャンブルが原因の借金であっても、多くの人が裁量免責により借金をゼロにしています。裁判所や裁判官に対し誠実な態度をとること、過ちを繰り返さないとの意思を示すことが大切です。
自己破産の手続きと流れ
自己破産の場合は、通常は弁護士か司法書士に依頼して手続きをしてもらうことになります。司法書士は、自己破産手続について、書類作成などのサポートはできますが、弁護士のように破産手続きの代理はできないので、どちらか迷ったら弁護士に依頼したほうが良いでしょう。法律家に依頼した先の流れは以下のようになっています。
(1)弁護士が受任通知を発送する
・受任通知により、債権者からの取り立てが止まります。
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(2)自己破産及び免責の申立手続
自己破産は「自己破産」と「免責」の二つの手続きがあり、通常は同時に申し立てを行います。
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(3) 破産審尋
裁判官が本人に話を聞き、借金をした理由や、本当に返済能力がないのかなどの事情を聴きます。
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(4)破産手続き開始決定
破産管財人が決定され、本人が財産の処分をすることができない、一定の職業制限がかかるなど、様々な効力が発生します。
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(5) 免責審尋
裁判官が本人に話を聞き、この人は免責を認めるに値する誠実な人物かどうかを確かめます。
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(6)免責許可決定
免責決定書の送付を受けることで、借金が免除されます。
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(7)官報に掲載される
破産手続き開始決定、および、免責決定の際の2回、それぞれの決定から2か月後に官報に掲載されます。
自己破産を弁護士に依頼する場合の流れと費用
自己破産は裁判所を通した手続きのため、多くの書類作成などが必要になり、法律の素人が自力ですべての手続きを行うのは大変です。また、「弁護士に依頼することで免責を受けやすくなる」「委任契約直後に債権者からの取り立てが止まる」などのメリットもありますので、自己破産の際は弁護士に依頼されることをお勧めします。
自己破産の費用の相場は20~70万円となっています。処分する財産が多数あるなど、事案が複雑な場合は、それだけ弁護士費用も高額になります。
手持ちの財産がほとんどない場合は「同時廃止」という手続きになり、費用は20~30万円程度になります。現実に自己破産をする人の多くは同時廃止手続きを取っています。
ある程度まとまった財産がある場合は「少額管財」という手続きになり、この場合の費用は50万円程度かかります。
財産があり、同時廃止でも少額管財でもない場合は、費用は70万円程度となります。
・無料の法律相談を利用しよう
最近では、多くの法律事務所が借金問題に関連した法律相談を無料で受け付けていますが、どこに相談していいかと迷った場合は「法テラス(https://www.houterasu.or.jp/)」や地方自治体の無料法律相談を利用されるとよいでしょう。
また、必ずしも最初に相談した法律事務所に依頼しなければならないわけではないので、複数の法律事務所に相談してみて、親切だった、話しやすいと感じた事務所に依頼されることをお勧めします。