任意整理を行うと借金を減額できます。原則として元本は減額されず、利息や遅延損害金を減額できますが、例外的に元本を減額できることもあります。借金を減額できた事例と例外的なパターンについても解説します。減額できない借金や、任意整理に向いている人・向いていない人についてもご紹介します。
目次
任意整理で減額できる借金の種類とは?
任意整理で減額できるのは、原則として利息と遅延損害金で、元本は減額されません。返済が必要なお金を、「借金」と一口に言いますが、その性質によりいくつかの種類に分かれ、その一部だけが減額の対象となります。
【元本】借りたお金の金額のことで、100万円を借りたならば100万円が元本となります。元本は原則として減額対象とはなりません。
【利息】お金を借りた際、元本のほかに支払わなければならないお金のことで、分割払いの手数料は「利息」に入ります。100万円を借りて1年後に110万円を返した場合、10万円が利息となります。
利息のうち、最後に返済した日から、任意整理をして金融機関等と和解が成立するまでの間にかかるはずの利息を「経過利息」といいます。
また、和解が成立してから、和解した約束通りに借金を完済する日までにかかる利息を「将来利息」といいます。任意整理を行えばどちらの利息もカットできる可能性があります。
ただし、すでに支払い済みの借金の利息を取り返すことは、原則としてできません。
【遅延損害金】借金を期日までに返済できなかった場合は、通常、損害賠償金を支払わなくてはなりません。しかし、任意整理を行えば、遅延損害金を支払わなくて済みます。
借金の元本が減額できるケースとは
過去に借金やクレジットカードのキャッシングなどを利用しており、借金の利息に過払い金が発生している場合は、その過払い金によって借金が大幅に減額できることがあります。
【過払い金とは】
過払い金は、正確には過払い利息のことで、過去に業者に対し、法律の規定よりも多く支払いすぎた利息のことです。
かつては、「利息制限法」と「出資法」という2つの法律が、それぞれ利息の上限を設けており、消費者金融などの多くの貸金業者が、よりたくさんの利息を付けられる「出資法」の基準でお金を貸し付けていました。
しかし、2010年6月からは法律が改正され、「利息制限法」と「出資法」の利息制限が同じとなりました。また、過去に貸金業者が利息制限法の制限を超える利息で貸し付けていた場合は、違法な利息として、借りた人が払いすぎた利息を返してほしいと請求できるようになりました。
したがって、2010年6月以前から借金や、クレジットカードのキャッシングなどを利用した経験がある人は、借金の過払い金が請求できるかもしれません。
任意整理をすれば、過払い金があるのか、あるとすればいくら請求できるのか、「引き直し計算」という方法で調べられます。その結果によっては、現在抱えている借金の元本を大幅に減らすことができ、もしくはゼロにできるかもしれません。
なお、2010年6月以降に新たにした借金には、過払い金が発生しておりません。しかし、2010年6月以前から継続的に取引がある業者の場合は、過払い金が請求できることがありますので、債務整理の専門家に相談してみましょう。
任意整理により借金を減額できた事例
【事例1】カードローンや消費者金融など3社から合計250万円の借金をしており、98万円の利息が発生していた場合
【任意整理前】
月々の返済額はリボ払いで7万円であったところ、任意整理を行って、以下のように借金が減額されました。
【任意整理後】
月々の返済額は5万円となり、毎月2万円の負担軽減に成功しました。
【事例2】消費者金融で1社から200万円の借金をしており、年利0.14%で2年かけて支払う予定だった場合
【任意整理前】
しかし、病気により転職を余儀なくされて毎月の返済が負担になり、債務整理を行って5年かけて返済することにしました。
【任意整理後】
月々の負担額が7万3千円も下がり、現在の収入でも返済していかれるようになりました。
【事例3】10年以上前からやり取りがあったカードローン会社と消費者金融の2社から合計300万円を借りていた場合
【任意整理前】
利息とあわせると、借金の総額は427万円にもなりました。
【任意整理後】
調査したところ、A社には150万円の過払い金があることが分かりました。任意整理により利息をカットし、さらに150万円の過払い金で元本を相殺すると、以下のようになりました。
借金の総額は150万円となり、3年の分割払いで4万2千円と、返済可能な金額になりました。
任意整理では思ったより借金額が減らない?と感じたら
任意整理は元本が減らないので、一見あまり借金額が減らないと感じるかもしれません。しかし、利息と遅延損害金をカットできるだけでも、借金総額全体としてはかなりの減額効果をもたらします。それでも返済がきついようでしたら、より強力な手段である個人再生や自己破産を検討しましょう。
【利息カット効果は侮れない】
まとまったお金を借りた場合、短期間で返済できれば利息も少なくて済みます。しかし、何年もかけて返済を続けると、それだけ高額の利息を支払うことになります。
2010年の法律の改正により違法な高金利を課されることはなくなりましたが、現在の法律の範囲内で借りたとしても、例えば年利14パーセントというのは決して低い金利ではありません。
仮に、200万円を借りれば1年で28万円の利息がかかります。3年ならば84万円、5年ならば利息金額は140万円となります。これをカットできるだけでも大きな負担軽減となります。
【遅延しているならば任意整理は特に効果的】
遅延損害金も無視できない借金です。期日通りに借金を返済できないと、利息とは別に遅延損害金が発生しますが、これは利率20%などかなり高額となっています。借金を滞納しているのであれば、一人で抱え込まずに早めに専門家に相談しましょう。
なお、借金を3ヶ月以上滞納していると、個人のお金の貸し借りに関する情報を保管している「信用情報機関」という組織の記録にブラック情報として残ってしまい、それ以降は記録が消えるまでの5年ほどの間、どこの金融機関からも新たに借り入れをするのが難しくなります。これを俗にブラックリスト入りといいます。
任意整理のデメリットの一つに、任意整理を行うと記録がブラック情報として信用情報機関に残り、ブラックリスト入りしてしまうことがあります。しかし、すでに滞納によりブラックリスト入りしているのであれば、さらなるデメリットは発生しません。そのため、デメリットを気にすることなく借金問題の解決が可能です。
また、借金を滞納していると、金融機関や業者から支払いの督促が何度も来ます。しかし、任意整理を専門家に依頼すると、それ以降は督促が来なくなります。これは、任意整理後は、金融機関や業者は法律家を通す形でしか借金主に連絡をしてはいけないというルールがあるからです。
【利息や遅延損害金のカットだけでは厳しいと感じたら】
借金の金額がとても大きく、元本だけでもとても払いきれないと感じるようでしたら、より強力な借金減免手段である「個人再生」や「自己破産」といった方法が使えます。
個人再生は、ローン中のマイホームや財産を守りながら借金を大幅に減らすことができます。自己破産は、一定額以上の財産を裁判所により処分される代わりに、借金をすべて帳消しにできます。
任意整理が向いている人はこんな人
・継続的かつ安定した収入がある人
任意整理は基本的に元本を返済する借金解決方法ですので、安定的な収入があることが必要です。毎月一定額の収入が必要というわけではなく、一次産業従事者の方のように、1年を通せば安定的な収入があるといえるケースであれば問題ありません。
また、パートやアルバイト、フリーターや派遣社員といった非正規雇用の方でも、生活に必要な費用のほかに、任意整理で約束した借金の支払いを続けられるだけの収入があれば、任意整理が可能です。
・家族や周囲に知られたくない人
借金をしていることや、借金の整理をしたことを親しい人に知られたくない場合は、任意整理で解決するのがベストです。個人再生や自己破産の場合は裁判所での手続きになるため、様々な書類の取り寄せや作成が必要になります。その分周囲に借金のことを知られるリスクが高まります。
任意整理の場合、基本的に専門家とのやり取りだけで手続きできるので、家族や周囲にばれるリスクはほとんどありません。法律相談の際、周囲に知られたくない旨を相談すれば、連絡の際も家族に知られることがないように取り計らってくれます。
・借金の期間が長期にわたり、利息額が膨らんでいる人
リボ払いで高額の借金を毎月少しずつ返済しているケースなどでは、借金の返済期間が長期にわたり、それだけ利息の金額も膨大になります。「いつまでたっても借金の返済が終わらない」「借金の残高をみて利息の多さに驚いた」という方は、任意整理をすることで相当の負担軽減効果が期待できます。
・負担を軽くしたい借金と、払い続けたい借金がある人
消費者金融からの借金の負担は軽くしたいが、会社からした借金は払い続けたい、といったように、借金の整理の対象を選びたい場合は任意整理が向いています。個人再生や自己破産の場合は、すべての借金が対象となりますが、任意整理は特定の借金だけを負担軽減することが可能です。
例えば、保証人のいる借金を任意整理した場合、保証人に請求が行きます。また、自動車やバイクをローンで買った場合、ローンを任意整理すると車やバイクを引き上げられてしまいます。「保証人に迷惑をかけたくない」「ローン中の品物を手元に残しておきたい」という場合も、任意整理ならば整理の対象から外すことで対応が可能です。
任意整理に向いていない人
・借金の金額が高額な人
現在の収入や、生活の状況と照らし合わせて、借金の額が高すぎる人は任意整理に向いていません。借金が元本だけになっても支払いが厳しい場合は、任意整理以外の個人再生や自己破産を選択することになります。
・収入がない人
失業や病気などで収入がない人は任意整理ができません。自己破産を選択するか、借金額が比較的少ない場合は新たな勤め先を探して就職し、任意整理をするという選択肢もあります。
・借金の貸主の印象が悪くなるような事情がある人
たとえば、借りた借金を一度も返済しないなど、貸主に不信感を抱かせるような事情がある場合では、貸主が話し合いに応じてくれないケースがあります。任意整理はあくまで専門家による私的な話し合いなので、交渉が決裂することがあります。そのような可能性があるケースでは個人再生や自己破産など、裁判所を通じた手続きのほうがうまくいきます。
・貸主が担保を持っている人
借金に家などの担保がある場合、貸した側は借金の返済が滞ると担保を現金化して回収しようとします。より確実にお金を取り戻せるので、私的な交渉による話し合いには応じにくくなります。
任意整理の際の交渉とポイントは?
任意整理の際は、借金した本人が約束通りにきちんと支払いを続けられるよう、無理のない返済計画を立てて交渉することが大切です。背伸びをした返済プランを立て、結局支払いきれずに任意整理に失敗するようでは、貸主の側も法律家の側も困ってしまいます。
無理のない返済計画を立てるためには、以下の2つのポイントが大切です。
- 任意整理の経験が豊富で、借金苦の実情をよく理解している法律事務所を選ぶこと
- 借金にかかわる事情や資金繰りの状況について、ありのままを包み隠さずに相談すること
こうしたポイントを踏まえることで、法律家も現実的なプランを立てて業者側と交渉することができます。
借金の苦しみから一刻も早く解放されるためにも、信頼できる法律事務所を選び、慎重な返済計画を話し合いましょう。