個人再生手続中に、一括返済をするメリットとデメリット、注意点について解説します。個人再生中の一括返済は可能ですが、債権者平等原則などのルールを守って行う必要があります。また、一般的な借金の一括返済と比べてメリットが少ないので、無理に生活を切り詰めてまで一括返済をするのは考え物です。個人再生を依頼した弁護士に、事前によく相談してから行いましょう。
目次
個人再生手続開始後の一括返済は可能?
個人再生手続をとり、再生計画に従って返済中に、残債務を一括返済することは、手続き上禁止されていないので、可能となっています。しかし、個人再生中の一括返済には注意すべき点があるため、事前に弁護士と相談したうえで行いましょう。
一括返済とは、債権者に分割払いで支払うと約束した債務の未払い分をすべて支払うことで、繰り上げ返済とも呼ばれます。個人再生後、以下のような事情でまとまったお金が手に入り、一括返済が可能になることがあります。
- 資産のある親が亡くなり遺産を相続した
- 会社の昇進などで給料が上がった
- 宝くじがあたった
こうした事情でお金を手に行けたら、一刻も早くすべて返済して、債務から解放されたいと思うことでしょう。しかし、専門家への相談なしに一括返済をしてしまうのは考え物です。
再生手続き開始後の一括返済の場合、すべての債権者に平等に返済しなくてはなりません。また、一括返済に当たっては債権者の同意を得る必要がありますが、返済開始後すぐの一括返済の場合は、債権者に「一括で返済できるお金があるのならば、なぜ個人再生をしたのか」と疑念を持たれ、異議を唱えられてしまうことがあります。
一括返済をすれば、「精神的な負担が軽くなる」「分割払い時の手数料を削減できる」といったメリットがあります。しかし、再生手続開始後の場合、一括返済をしたからと言って、債務をさらに圧縮できるわけではありません。そのため、無理に生活を切り詰めてまで一括返済をしようとするよりは、再生計画に従って分割による返済を進めたほうがよいでしょう。
【用語解説】
- 債務…ここでは借金のこと
- 債務者…お金を借りた人
- 債権者…お金を貸した人
個人再生手続前の借金の一括返済との違い
再生計画手続前に、一般の債務者の状態で借金を一括返済した場合は、以下のメリットがあります。
(1)特定の債務者だけを選んで一括返済が可能
(2)残債務の一括返済により借入期間を短くでき、利息の支払い額を減らせる
借金をする際には、分割払いによる返済期間が長ければ長いほど多くの利息が発生します。債権者にとってみれば、毎月の分割払いでの返済は、途中で返済が滞るリスクのあるお金の貸し方です。しかし、利息をとることにより、長期の返済で多くの利息を受け取れるというメリットがあります。そのため、通常は分割払いでの返済という約束でお金を貸します。これを約定返済と言います。
一括返済をすると、債権者にとってみれば受け取る利息は減りますが、かわりにすぐに使えるまとまったお金が手に入ります。そのため、毎月の分割払いでの約定返済をやめ、一括での返済を申し出ても、応じてくれるのです。
このように、一括返済すると利息の支払い総額を減らせるため、まとまったお金が手に入ったら、利率の高い借金や、残額の大きい借金だけでも一括返済をすることで、全体の支出を抑えられます。
しかし、再生計画開始後は、債権者平等の原則というルールが発生するため、(1)特定の債務者への返済は不可能になります。また、再生計画後の債務には利息がつかないため、(2)の利息を減らせるというメリットもありません。
そのため、一般の債務者に比べて、個人再生計画に基づく返済中の債務者は、一括返済をするメリットが少ないと言えます。再生計画中に一括返済をお考えの場合は、メリットとデメリットをよく踏まえたうえで、実際に行うか判断されるとよいでしょう。
個人再生手続後に一括返済する3つのメリット
メリット【1】心理的な負担が軽くなる
毎月借金の返済を続けることは、大きな心理的負担となります。個人再生手続き開始後は、債務が大きく減額されるため、支払いきれないような重い借金苦からは解放されます。しかし、再生計画に従った分割払い債務はなくならず、淡々と続けなければなりません。
一括返済をしてしまえば、完全に借金から解放され、以後借金のことは考えなくて済むようになります。重い負担に苦しんだ末に債務整理を決断した人にとっては、精神的な負担の軽減は最も大きなメリットかもしれません。
メリット【2】分割払い時の手数料が減らせる
再生計画に従って分割払いをする際、基本的には毎月銀行に振り込むわけですが、振込手数料がかかります。この振込手数料は一回数百円程度ですが、3年36回分ともなると少なくない額になってきます。特に、債務整理が必要なほど追い詰められた人にとっては惜しい金額です。一括返済によって、この振込手数料を削減でき、コストカットを実現することができます。
メリット【3】債権者にとってもメリットがある
債権者は、一括でお金を返してもらえれば、分割での返済を待つ必要がなく、受け取ったお金をすぐ自分のために使うことができます。そのため、一括返済してくれるほうが債権者にとっても好都合です。
個人再生手続きが始まると、債権者は借金を減額され、受け取れるはずだった利息もカットされてしまいます。再生計画認可後に一部を分割で受け取ることになりますが、利息がもらえないため、債権者にとっては分割払いで返済を待つことには何のメリットもありません。加えて、債務者が裁判所を通じて再生計画通りの支払いを約束したと言っても、病気や失業などにより、分割払いができなくなるリスクもあります。
一括でお金を受け取れるのであれば、こうしたリスクは消滅します。そのため、原則としては債権者にとっても望ましい方法なのです。
個人再生手続後の一括返済、3つのデメリット
デメリット【1】ブラックリスト期間が直ちに短くなるわけではない
個人再生などの債務整理を行うとブラックリスト入りしてしまい、一定期間新たにお金を借りることが難しくなりますが、再生計画後に残りの債務を一括返済したからと言って、直ちにブラックリスト期間を縮められるわけではないことに注意が必要です。
ブラックリスト入りとは、個人のお金の貸し借りの情報を管理する信用情報機関の記録に、個人再生をしたことが事故情報として残ってしまうことを言います。信用情報機関は日本に3つあり、銀行や貸金業者が登録している合法的な機関です。銀行や貸金業者などは、お金を貸す際、この信用情報機関の記録を閲覧し、お金をちゃんと返してくれる人か判断します。この記録に事故情報が残っている期間は、融資の審査に通ることが難しくなります。
ブラックリスト入り期間は、個人再生の場合は5年~10年です。また、ブラックリスト入りのタイミングは、再生手続開始決定日からとなっています。
信用情報機関に記録を登録するのは、債務者がお金を借りた業者です。注意が必要なのは、任意整理や個人再生など、手続き後も返済を続ける債務整理については、業者によっては、「手続き後の減額された借金の返済も事故情報の一部」として登録依頼することがあるのです。
借金の相手方が、このような業者だった場合、一括返済をすれば、ブラックリスト入り期間を短縮することができます。しかし、そうでない業者だった場合は、一括返済してもしなくてもブラックリスト入り期間は変わりません。業者がどのような対応をするかは、ケースバイケースですので、一括返済をしたからと言っても、直ちにブラックリスト入り期間を短縮できるとは限らないのです。
自分の事故情報が記録に残っているかどうかは、各信用情報機関に情報開示請求をすることで確認できます。
- JICC (https://www.jicc.co.jp/)
- CIC(https://www.cic.co.jp/)
- 全国銀行個人信用情報センター(https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/)
デメリット【2】特定の債務者にだけ返済はできない
個人再生は裁判所を通した手続きであり、「債権者平等の原則」というルールが働きます。そのため、再生手続き後に、特定の債権者だけに一括返済をすることはできず、すべての債権者に公平に一括返済を行う必要があります。そのため、全債権者に一括返済できるだけのまとまったお金がなければ、一括返済を行うことはできません。
デメリット【3】債務は減額されない
個人再生手続により既に減額された債務を一括で返済しても、債務そのものは減額されません。任意整理の場合は、債権者との交渉次第で、一括返済する代わりに残債務を減額してもらえるケースがありますが、個人再生の場合はこのようなメリットは発生しません。
一括返済をすれば、銀行への振込手数料を削減できるというメリットはあります。しかし、1か月に数百円の手数料を支払うデメリットと、借金を分割で少しずつ支払えばよいというメリットのうち、どちらが得かということは、慎重に考える必要があります。
個人再生の一括返済や繰り上げ返済、注意点は?
個人再生の一括返済には、「債権者平等のルールを守る」「債権者の同意を得る」「返済後の困窮のリスク」という注意点があります。これらの注意点を踏まえつつ、事前に弁護士に相談して行いましょう。
1・すべての債権者に平等に一括返済する
個人再生手続き後に、特定の債権者だけ有利になるような弁済をするのは、法律で禁止されています。これを「債権者平等の原則」と言います。
2・全債権者の同意を得る
一括返済をするためには、すべての債権者の同意を得ることが必要となります。原則として、一括返済は債権者にとっても歓迎すべきことなので、同意は得やすいのですが、タイミングに注意する必要があります。再生計画による分割返済がスタートしたすぐ後に一括返済を申し出ると、「この人はこれだけの資力があるのに、どうして個人再生をしたのだろう」と疑われてしまうことがあります。
債権者は、本来は全ての借金を回収したいところなのに、債務者が困っているというので、借金の減額手続である個人再生にも応じています。債務者が手続後すぐにお金を返せるのであれば、「そもそも減額する必要などなかったのではないか」と気分を害する人も出てくるでしょう。
実際に財産があったのに、それを隠して個人再生を行えば、詐欺再生罪という犯罪に問われることがあります。そうなると、裁判所が不正な手続きとして手続きを終了してしまうおそれもあります。
債権者に財産隠しを疑われないようにするためのポイントは2つです。
- 再生計画開始直後の一括返済は避け、タイミングは弁護士と相談して決める
- 一括返済を行う正当な理由があることを説明する
(2)については、昇給や事業の成功などにより収入があったこと、遺産相続、宝くじの当選などがあります。こうした理由をきちんと説明できるようにしておきましよう。
3・一括返済後に困窮するリスクがある
宝くじで何億円も当たったのではなく、昇給などで収入にゆとりが出たので一括返済をしたいという場合、無理に生活費を切り詰めてまで一括返済をするのは考えものです。
人生には様々なリスクがあります。明日、病気や怪我で働けなくなる可能性もありますし、地震などの災害で住んでいる家などがダメージを受け、思わぬ出費がかさむこともあります。また、景気の動きや感染症の蔓延など、思わぬ形で増えた給料が減ることもあるでしょう。
債務から逃れたいがために、生活できるギリギリの金額まで生活費を切り詰めて一括返済を行った後、こうしたリスクが実現化すると、一気に困窮するおそれがあります。そうなると、生活保護申請を検討するなど、苦しい状況に追い込まれます。
無理をせず借金の分割返済を続けた場合、不測の事態に陥っても、ある程度まで柔軟に対応することができます。また、再生計画に沿った弁済の場合、利息は発生しないので、分割返済を続けたほうが債務者にとってメリットが大きく、リスクが少ないのです。
4・事前に弁護士に相談する
再生計画中に一括返済をしたい場合、「タイミングに問題はないか」「自分の経済状態で一括返済しても大丈夫か」と言ったことを、事前に弁護士に必ず相談されることをお勧めします。また、債権者との交渉は弁護士に任せたほうが安心です。
弁護士事務所にも分野によって得意・不得意があるので、個人再生手続きを依頼する段階で、債務整理の経験が多い弁護士事務所を選ぶとよいでしょう。